インバウンド 注目 直接学ぶ

【インタビュー】なぜ台湾で犬山市が選ばれるのか?信頼を築くまでの20年間の挑戦

2024年12月25日

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ナビタイムが2024年3月に発表した冬季の人気急上昇ランキングでトップにランクインしたことで、注目を集めている「犬山市」
訪日外国人滞在数増加率が昨年の約4倍で、2位以降のスキーをはじめとした冬季ならではのアクティビティを抑えての1位となりました。

なぜ犬山市では、外国人観光客からの人気が高まっているのでしょうか?

実際に、犬山市のインバウンド事業を推進している犬山市観光協会の片山さんにお話をお聞きしました。

profile
片山 義博
一般社団法人 犬山市観光協会の事務局長。
国内向けのPRだけでなく、犬山市のインバウンドにも20年以上取り組んでいる。

犬山市の観光戦略まとめはこちら。

台湾で選ばれる犬山市の秘密――20年の挑戦が生んだ信頼

まずは犬山市のインバウンド状況を整理してみましょう。

ナビタイム 冬季の人気急上昇ランキングでトップ

2024年3月に、ナビタイムが発表した冬季の人気急上昇ランキングが発表されました。
このランキングは、2023年7月~8月と2023年12月~2024年1月のデータを比較し、夏に比べて冬に訪日外国人観光客の滞在が増加した自治体のうち、増加率が2倍以上となった地域を抽出し、2022年12月~2023年1月と2023年12月~2024年1月の滞在増加率も比較し順位化したものです。

愛知県犬山市では、昨年同時期と比べて約4倍の増加を記録したことで、1位となりました。

圧倒的に多いのが「台湾」

宿泊客の国籍や犬山城を訪れる観光客の国籍データから、犬山市の訪日外国人で最も多いのは「台湾人観光客」であることがわかっています。
実際に、台湾の言語である「中国語(繁体字)」のパンフレットは、他の言語のものに比べて4倍の速さで配布されてしまうそうです。

挫折と試行錯誤――台湾市場攻略への険しい道のり

ここからは、犬山市観光協会 事務局長の片山さんから聞いた内容をもとに紹介していきます。

HAYATE
HAYATE

本日はお時間をいただきましてありがとうございます。
早速ですが、インバウンドの取り組みが注目されている犬山市ですが、その理由は何でしょうか?

片山さん
片山さん

まだまだ道半ばだと思っていますが、あえて理由としてあげるなら、インバウンドがまだ一般的でなかった約20年前から取り組みを始めていたからだと考えています。

なぜ台湾に注目したのか?

「インバウンド」という言葉が広く一般的になったのは、2011年ごろと言われています。
そのもっと前にあたる2006年から、犬山市はインバウンド誘客に取り組んでいたと言います。

「インバウンドに取り組むには、ターゲットを決めなければいけない」

犬山市観光協会では、さまざまな地域関係者や観光業関係者に話を聞いて情報を集めた結果、「台湾」をメインのターゲットとすることに決めました。
もともと大手旅行会社の日本旅行にいた片山さん自身が、仕事で世界を旅する中で、台湾が新日国であり、台湾人の観光ニーズから”犬山”に魅力を感じていただけるのではないか、と考えていたこともターゲット選定の決め手になったといいます。

台湾イメージ

粘り強い営業活動と戦略転換――信頼を築く地道な努力

HAYATE
HAYATE

「台湾」をメインターゲットにすると決めてからは、具体的にどのように取り組んでいったのですか?

片山さん
片山さん

正直、試行錯誤の繰り返しでした。
台湾からの信頼を築くには、たくさんの時間が必要でした。

2度行った合同説明会での苦渋

台湾からの旅行者を呼び込むため、まず最初に行ったのは「合同説明会」です。

2008年、犬山市の観光施設がグループを組み、台北市内で実施。
会場には、台湾の旅行会社など約40社が集まり、名刺交換やランチタイムも大盛り上がりとなりました。

提供:犬山市観光協会

しかし…

片山さん
片山さん

全くツアーを作ってはくれませんでした、、、

合同説明会は盛り上がり、成功したように見えましたが、肝心のツアー造成には繋がらず、決して「成功」とは言えませんでした。

HAYATE
HAYATE

なぜ、ツアー造成に繋がらなかったのでしょうか?

片山さん
片山さん

犬山市の魅力が伝わっていなかったからです。
旅行会社の担当者だけでなく、台湾人として「犬山」の認知はかなり低かったためツアーに組みこんでくれなかったようです。

「認知」と「信頼」の獲得へ

当時は「昇龍道ルート」もほとんど知られておらず、台湾人観光客は、東京・大阪・京都はもちろん、高山や白川郷、中津川などは人気でしたが、ちょうど犬山市あたりは認知がほとんどなかったのです。

そのため、旅行会社の人はもちろん、ツアーのお客様の多くが”犬山”を知らないため、ツアーに組み込まれなかったと考えられています。

片山さん
片山さん

合同説明会は、その後ももう1回実施し、合計2度行いました。
いずれも、成果には繋がりませんでした。

片山さん
片山さん

まずは「犬山ってこんな魅力的な場所なんだ」と言うことを直接伝えるべきだと考えました。
台湾の旅行会社4〜5社ほどに来てもらって、実際に犬山市内を案内しました。

2度の合同説明会で、大きな成果が得られなかった犬山市観光協会は、「ファムトリップ(視察ツアー)」を実施することにしました。
説明会方式ではなく、「実際に旅行会社の人に現地に来てもらって、魅力を感じてもらおう」と考えたからです。

提供:犬山市観光協会

合同説明会の時のように40社一斉にPRをすることはできませんが、少しずつでも、実際に犬山市に来ていただいて丁寧に魅力をお伝えしました。
また、片山さん自身も台湾へ通い、営業活動を行うことで、旅行会社との信頼関係を構築していきました。

台湾の旅行会社を訪れる片山さん
提供:犬山市観光協会

こうした地道な努力が功を奏し、少しずつ犬山市がツアーに組み込まれるようになっていきました。

片山さん
片山さん

台湾人のニーズが定番の観光地から、地方観光へ移ったことも大きかったと思います。
現在では知名度を少しずつ得られてきたので、FIT(個人観光客)の誘致も進めています。

ニーズの変化 FITにへのPRも強化

インバウンドの台湾市場も、団体から個人(FIT)に移行しつつあります。
こうした状況を踏まえ、犬山市では、展示会への出展や台湾人インフルエンサーの活用など、個人向けのPRにも力を入れています。

提供:犬山市観光協会

宿泊誘致へのシフト――経済効果を最大化する取り組み

HAYATE
HAYATE

たくさんの努力があっての今があるんですね。
外国人観光客数で賑わってる犬山市ですが、片山さんが考える課題はありますか?

片山さん
片山さん

まずは、「観光客数」と言う指標から、「消費額」と言う指標に変化させていくことだと思います。

観光客が犬山市に訪れていただくだけでは、あまり地域にとっては意味がありません。
持続可能な地域を作っていくには、「稼ぐ観光」を意識する必要があります。

犬山市では、ホテルなどと連携をして、「宿泊客」を増やす取り組みを強化しています。
「観光客数」から「消費額」へ指標を変化させることは、オーバーツーリズム対策にも繋がります。
地域経済や住民にも考慮したインバウンド戦略を立てていきたい、と教えてくれました。

2022年に開業したホテルインディエゴ有楽苑
提供:犬山市観光協会
2022年に開業したホテルインディエゴ有楽苑
提供:犬山市観光協会

さらなる可能性へ――犬山市が描く未来の観光戦略

HAYATE
HAYATE

今後の犬山市のインバウンドの取り組みについて教えてください。

片山さん
片山さん

まずは先ほどお伝えしたとおり、オーバーツーリズムの対策に力を入れていきます。
また、新たなターゲットとしては「タイ市場」にも注目をしています。

新興国であるタイは、人口が増加し続けており、経済も急激に発展しています。
また、親日国であることからも、日本のインバウンドに大きな影響を与える潜在市場として注目されています。

片山さん
片山さん

私の感覚では、まだタイ人観光客は、東京や大阪などの定番観光地への旅行がメインです。
しかし、これからは徐々に"地方"への人気が高まっていくと思います。
台湾市場のように、少しずつ、丁寧に犬山市の魅力を伝えていくことで、タイでの認知も獲得していきたいと考えています。

犬山市では、すでにタイの旅行会社への営業活動や観光展示会への出展に挑戦しています。
「日本への旅行熱は、台湾と同じくらいあると思いますよ」と片山さんは教えてくれました。

タイの旅行会社を訪れる片山さん
提供:犬山市観光協会

タイ市場についてはこちらもご覧ください

犬山市の挑戦が示す道――観光事業者が学ぶべき教訓

観光地が成功を収める鍵は「認知」と「信頼」にあります。
犬山市は約20年間にわたる地道な取り組みで台湾市場からの信頼を築き上げ、人気観光地へと成長しました。
その背景には、市場の成熟度や国ごとの観光ニーズを的確に分析し、先を見越したPR戦略を展開した努力があります。

信頼を得るためには時間が必要ですが、数年後の成功のために、今からできることを考えて、一歩ずつ前に進んでいくこと。
その積み重ねが観光地の未来を大きく変えるのですね。

・インバウンドも、「信頼」が命!時間をかけて、信頼を勝ち取っていくことで、人気観光地となる。
・市場の成熟度(定番観光地→地方へ、消費の傾向…etc)など、ターゲットごとに異なる観光ニーズを適切に読み、先を見越したPR戦略を立てる。

台湾市場については、こちらもご覧ください

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特定の国、組織、政策、または個人を擁護したり、批判したりする意図は一切ありません。
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  • この記事を書いた人

上野 颯

添乗員・観光イベントプランナー

1998年 愛知県一宮市生まれ、岐阜市育ち
中学生で最年少の観光案内人としてデビュー。
旅行会社やIT企業での経験を経て、公立高校商業科(観光ビジネス)の講師や観光戦略の立案、バスツアーの企画など、多岐にわたる活動を展開しています。

「観光をもっと、おもしろく」をテーマに、このサイトでは観光業界で働く皆さまに役立つ情報を発信しています。

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