インバウンド コラム

観光大国フランスと稼ぐアメリカに学ぶ、日本の観光“消費額アップ”術

2025年9月13日

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観光産業は、これから日本経済を支える重要な柱になると期待されています。
政府が掲げる目標は、2030年までに訪日外国人観光客を6,000万人に増やし、観光消費額を15兆円に伸ばすこと。
これは世界に「観光の国・日本」を強く印象づける、かなり挑戦的な数字です。

では、日本はどんな観光国を目指すべきでしょうか?
観光客数世界1位のフランスと、観光収入世界1位のアメリカ。
それぞれの現状とデータを比較しながら、日本の未来のヒントを探っていきます。

観光客数1位のフランス、観光収入1位のアメリカ

世界の観光客数ランキング
ランキング観光客数
1位フランス約1億人
2位スペイン8,516万9,000人
3位アメリカ6,648万2,000人
4位イタリア5,725万人
5位トルコ5,515万9,000人
参考:International Tourism Highlights (2024年版)

フランスはコロナ前からずっと、観光客数で世界1位を独走しています。
2位以下を大きく引き離すほどの人気ぶりで、「世界一訪れられる国」として地位は安定しています。

世界の都市の魅力度ランキングでも、パリは4年連続で1位に選ばれています。

世界で最も観光客が訪れる国・フランス
※イメージ

フランスは、世界で最も観光客が訪れる国として知られています。
パリにはルーヴル美術館をはじめ、世界的名画が集まる美術館が点在し、モネやゴッホなど画家ゆかりの地も数多く残されています。
さらに、エッフェル塔や凱旋門といった象徴的な建築物、シャトー巡りやワイン文化など、歴史と芸術、食文化が訪れる人を惹きつける場所です。
そして2024年のパリ五輪を機に、都市整備や観光インフラが一段と進化しており、今後も多くの観光客が訪れることが予想されています。

世界の観光収入ランキング
ランキング観光収入
1位アメリカ1,891億3,400万USドル
(約28兆円3,701億円)
2位スペイン920億2,000万USドル
(約13兆8,030億円)
3位イギリス739億2,300万USドル
(約11兆884億5,000万円)
4位フランス712億1,100万USドル
(約10兆6,816億5,000万円)
5位イタリア558億9,000万USドル
(約8兆3,835億円)
参考:International Tourism Highlights (2024年版)
※1USD=150円計算

アメリカはコロナ前から、観光収入で世界1位を独走中。
2位以下を大きく突き放し、「稼ぐ観光立国」として圧倒的な存在感を見せています。
観光でお金を生み出す仕組みがとても上手な国です。

世界で最も観光収入がある国・アメリカ
※イメージ

アメリカは広大な国土を持ち、世界経済の中心地として常に注目を集める国です。
ハリウッド映画の聖地ロサンゼルス、刺激的な大都会ニューヨーク、世界的に有名な国立公園やビーチリゾートまで、都市と自然の魅力が共存しています。
観光客数では世界3位ですが、観光収入ではダントツの1位!
テーマパーク、都市観光、国内外からの長期滞在旅行など、多様な観光コンテンツと高い消費単価で“稼ぐ観光大国”の地位を確立しています。

どうしてフランスは“人”を集め、アメリカは“お金”を集めるのか

フランスは観光客数で世界一、アメリカは観光収入で世界一。
なぜこんな違いが生まれるのでしょうか?

立地の強みで人を集めるフランス、長期滞在で稼ぐアメリカ
フランスアメリカ
ヨーロッパ域内旅行者が多く、1泊〜3泊の短期旅行が多い。
特にドイツ・イギリス・ベルギーなど隣国からの週末旅行が多い。
多くの国が隣接しており、日帰りや1泊程度のお出かけがしやすい立地と条件(EU加盟国は国境検査不要など)がある。
海外から来る旅行者は長距離移動が多いため、平均滞在日数が長い(平均18泊)。
長期旅行になる分、宿泊費・交通費・消費額が増える。
立地は不利だが、土地の広さが圧倒的で長期滞在につながる。
※クリックで拡大できます。
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フランスは、ベルギー、ルクセンブルク、ドイツ、スイス、イタリア、モナコ、スペイン、アンドラ、イギリス(陸続きではない)などの9カ国と隣接しており、総人口は2億人を超えます。
さらに高速鉄道が発達して交通条件がよく、数時間〜半日で移動できるケースが多い上、EU&シェンゲン協定のおかげで国境検査がほぼ不要という強みがあります。

一方で、アメリカは、カナダとメキシコの2カ国と隣接していますが、カナダのトロントからニューヨークまでは500km以上あり、13時間以上の移動となります。
メキシコは所得水準が低めであり、観光目的より出稼ぎやビジネス渡航も多いことから、観光という意味での立地にはやや不利な状況にあります。

フランスは、日帰り観光やお買い物などの「おでかけ需要」を取り込みやすい条件が揃っており、観光客数増加に繋がっています。

立地条件の重要性について(距離の弾力性理論)
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距離が伸びれば運賃・所要時間・乗継負担が増し、旅行の機会費用が高まります。特に高所得層ほど時間価値が高く、距離の悪影響が大きいとされています。
ペルーで行われた研究では、出発国との距離が1%増えるごとに観光需要は約1.2%減少することが報告されています。(観光ONEでは、距離弾力性の理論と名付けています)
他地域でも同様の傾向が確認され、〝距離の不利〟をどう和らげるかが観光戦略において非常に重要な鍵となります。

つまり、〝観光客数〟を増やすためには、 時間・費用・不便さ・文化距離(言語や文化の違い)を考慮した「行きやすさ」がとても重要であるということです。

参考論文:https://mpra.ub.uni-muenchen.de/32157/1/Long_Haul_flights_and_tourist_arrivals.pdf?utm_source=chatgpt.com

多く集めて薄く稼ぐフランス、少なく深く稼ぐアメリカ
フランスアメリカ
フランスの統計では、国境を越えて日帰りで訪れる観光客もカウントされる(例えば、スイスからの買い物客など)
消費額は宿泊客より当然少なくなる。
観光客数は多いが、消費額は少なくなる
アメリカは基本的に航空で来る訪問者が多く、宿泊+レンタカー+都市間移動などで高額消費が発生する。
観光客数は少ないが、消費額は多くなる
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フランスは近隣国からの観光客が多く、日帰りや3日以内の短期滞在も少なくありません。
しかし、観光ONEで収集したさまざまなデータを総合すると、比較的長期旅行の場合では平均して4〜7泊の滞在が中心であると考えられます。

一方、アメリカは平均滞在日数のデータが公表されており、その平均は18泊と長期滞在が主流です。
この滞在日数の大きな差が、フランスとアメリカの観光消費額の差にもつながっていると考えられます。

滞在日数は観光消費額に直結する重要な要素です。
一般的に、遠方から訪れる旅行者ほど滞在日数が長くなる傾向があり、結果的に消費額も増加します。

日本でも同様で、欧米やヨーロッパなど距離のある国からの観光客は長期滞在するケースが多く、1人あたりの消費額も高くなる傾向があります。

手頃価格で誰もが行きやすいフランス、プレミア価格でしっかり稼ぐアメリカ
フランスアメリカ
バジェットホテル、ユースホステル、Airbnb、キャンプ場など安価な宿泊オプションが多く、旅費全体が抑えられがち。
多様だが比較的低価格帯も多い
大都市ホテル、テーマパーク、国立公園の入場料などの価格水準が高い。
レジャー施設・レンタカー・外食の単価がフランスより高い。
高価格帯比率が高い
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滞在日数の違いに加え、価格水準の差もフランスとアメリカの観光消費額に影響しています。

フランスでは、Airbnb・ユースホステル・キャンプ場など、安価な宿泊オプションが豊富で、旅費を抑えやすい環境があります。
一方、アメリカでは大都市ホテルやブランドホテルの比率が高く、平均宿泊単価がフランスより高い傾向があります。
またテーマパークや国立公園の入場料、レンタカー、外食の価格水準もアメリカの方が高めです。
例えば、国立公園の入場料はフランスでは多くが無料または低価格ですが、アメリカでは有料で、1車両あたり30〜35ドルかかる公園も少なくありません。

為替の影響も無視できませんが、同じ通貨ベースに換算しても、アメリカの宿泊費・交通費・外食費は総じてフランスより高く、純粋に物価水準の差が消費額の高さに寄与していると考えられます。

2025年、アメリカでは国立公園の外国人観光客に対する入場料を引き上げが発表されました。

フランスは近くて安く回れる、アメリカは遠くて高く動く
フランスアメリカ
LCC(格安航空会社)、鉄道、車での移動が多く、移動コストが低い。
欧州域内移動は格安
国内移動に飛行機を使うケースも多く、観光消費に含まれる。
レンタカー・ガソリン・高速道路利用料も高い。
国内移動が高額
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フランスでは、移動距離が比較的短いため、LCC(格安航空会社)、高速鉄道(TGV)、車などを使った移動が多く、移動コストを抑えやすい傾向があります。
欧州域内では国境を越えても飛行時間が1〜2時間程度、鉄道でも数時間で移動できるため、交通費が観光消費全体に占める割合は低めです。

一方、アメリカでは国内が広大で、主要都市間の移動に飛行機を利用するケースが多く、航空券代が観光消費に含まれる割合が大きいです。
さらに、レンタカー代、ガソリン代、高速道路の有料区間料金(toll road)、駐車料金なども高めで、移動コストが旅行全体の支出を押し上げる要因となっています。

距離の違いが移動手段に影響し、フランスでは「安価で短距離移動」中心、アメリカでは「高価で長距離移動」中心となる構造が、観光消費額の差にもつながっているともいえます。

フランスは近くの国から集め、アメリカは遠くの国から呼び込む
フランスアメリカ
来訪者の約60〜70%がヨーロッパ域内(EU圏)。
購買力は比較的安定しているが、遠距離客に比べ支出は控えめ。
隣国比率が高い
中国・インド・中東など遠距離市場からの旅行者は、宿泊・買い物・高級体験への支出が大きい。
遠距離からの富裕層観光客多め

訪問者の出身地の違いも、フランスとアメリカの観光消費額の差を生む大きな要因です。

フランスは地理的に近隣諸国からの観光客が多く、週末旅行や短期滞在が中心になる傾向があります。これにより、総消費額は安定しつつも、一人あたりの支出は比較的抑えられる傾向にあります。
一方でアメリカは、アジアや中東など遠距離市場からの訪問者が多く、宿泊日数が長くため、滞在中の買い物や高級体験への支出も積極的です。
結果として、アメリカでは少人数でも高い観光収入を生む構造になっています。

【提言】フランスとアメリカから学ぶ。日本の観光戦略

「国」を「地域」に置き換えることで、地域の観光戦略にも活かせます。

観光客が集まりやすい国・日本
日本のインバウンド商圏、その条件はフランスより有利
日本のインバウンド商圏には、数時間〜半日で行ける範囲に20億人近くの人口があり、非常に有利な状況である。
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「距離の不利」をなるべく無くす施策を行う
距離の不利をなくす4原則
(日本に観光客を増やす方法)
1.運賃(移動コスト)を安くする
2.所要時間を減らす
3.乗り継ぎコストを減らす
4.文化距離(言語・慣習の不安など)を減らす
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まずは距離の不利を減らすことが重要です。
もちろん一朝一夕に実現できるものではありませんが、次のような施策が効果的です。

  • 運賃の引き下げ:円安は訪日観光客に有利に働くため、今の為替状況を追い風に。
  • 運行本数の増加:選択肢を増やすことで利便性を向上。
  • 直行便の拡充:主要都市間を結ぶ直行便を増やし、乗り継ぎの不便を解消。
  • 発着空港の多様化:成田・羽田・関空以外の地方空港にも直行便を誘致し、地方観光への導線を作る。
本当の高付加価値は、富裕層の優越感をデザインすること!

アメリカを訪れるインド人観光客は、すでに世界平均を大きく上回る消費をしており、アメリカの観光収入を押し上げる存在になっています。
日本もこの「距離のメリット」を活かして、経済成長が著しい東南アジアやインドからの富裕層観光客誘致に、もっと力を入れるべきです。

そして、こうした富裕層を取り込む上で最も重要なのが「VIP待遇」です。
今、観光業界では「高付加価値化」という言葉が盛んに使われていますが、その意味を取り違えているケースが多いと感じます。

多くの自治体や事業者は「地域の逸品」や「特産品」「高級食材」を前面に押し出し、単価を上げることに注力しています。
もちろんそれも魅力を磨くという点では大切ですが、本当に富裕層に響く“高付加価値”は、もっと別のものです。

富裕層市場では、単に高いものを買うよりも、

  • 他では得られない特別扱い(=高いものを高く売ることではない!)
  • 自分だけが体験できる希少性

といった心理的満足の方が強い動機になります。
もっと平たく言えば「周囲との差別化をお金で買う」ということです。
そこには「私は応援している」という満足感や「この体験は自分だけのものだ」という誇りが伴います。

アメリカや中東の富裕層向け観光では、ラウンジ、専用ガイド、プライベート空間、優先入場といった「特別感」を演出する仕組みが当たり前のように組み込まれています。

重要なのは「高いものを売る」のではなく、高いお金を払う理由=ストーリーや体験価値を設計することです。
地域資源を活かしつつ、VIP体験、裏側見学、プライベート感など、「人と違う体験」を仕込む。
これこそが、富裕層観光における本当の高付加価値化です。

さらに、これにはもう一つのメリットがあります。
平均価格を下げられるという点です。
富裕層がVIP待遇にお金を払ってくれれば、一般向けの価格は抑えられます。

コンサートで言えば、VIPが高い料金を払うからこそ、応援席が安くなるのです。

ここで勘違いされがちなのが、「VIPから高いお金をもらうなら10倍良いものを提供しないといけない」という発想。
むしろ10倍良いものを提供してはいけません。
「ステータス消費」や「応援消費」は、余白を残してこそ成立するからです。

日本の観光業界は、この「高付加価値消費」の本質を理解する必要があります。
アメリカはその点がとても上手い。
日本人は真面目すぎて、観光業界に限らず、こうした心理的側面にアプローチするのが苦手な傾向があると思います。

だからこそ、ここを変えられれば日本の観光はまだまだ伸びます。
「特別感」をデザインできる国になれば、世界中から選ばれる観光立国へと進化できるはずです。

1万円のウニを探して1万円で売るのではなく、1,000円のウニを1万円で売る方法を考えるのです。
モノの価値ではなく、体験・ステータスという〝見えない価値〟でお金をいただく恐怖を克服することです。

日本の観光業界を盛り上げていきましょう!🔥

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  • この記事を書いた人

上野 颯

観光イベントプランナー・添乗員

愛知県一宮市生まれ、岐阜市育ち
中学生で最年少の観光案内人としてデビュー。
旅行会社やIT企業での経験を経て、公立高校商業科(観光ビジネス)の講師や観光戦略の立案、ローカル鉄道の列車企画・バスツアーの企画など、多岐にわたる活動を展開しています。

「観光の未来をもっと、おもしろく」をテーマに、このサイトでは観光業界で働く皆さまに役立つ情報を発信しています。

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