徳島県の山あいに、人口約1200人の小さな町があります。
町の約90%を森林が占める徳島県勝浦郡上勝町には、いま世界中から視察や旅行者が訪れています。
その理由は、日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」をした自治体だからです。
町のリサイクル率は、なんと約80%。
一般的な自治体のリサイクル率は20%前後であり、上勝町は日本トップクラスを誇っています。
今回、私が実際に上勝町を訪れて感じたのは、観光のために作られた仕組みではなく、地域の「暮らし」そのものに人が惹きつけられているということでした。

人口1200人、森林率90%の町・上勝町
徳島市内から車でおよそ1時間。
勝浦川の上流にある山あいの町が、徳島県勝浦郡上勝町です。四国で最も小さな町であり、約700世帯、人口はおよそ1200人。高齢化率は55%と過疎化が進む地域でもあります。


町の総面積の約88%を山林が占め、その多くはスギなどの人工林です。しかし、かつて町の主要産業だった林業は、海外からの安価な木材の流入によって次第に衰退していきました。
また、柑橘類の栽培も1981年の大寒波によって大きな被害を受け、地域の産業は大きな転換期を迎えることになります。

そんな中で新たな地域資源として注目されたのが、季節の葉や花でした。料理を彩る「つまもの」として出荷する、いわゆる「葉っぱビジネス」です。
高齢者や女性たちが中心となって取り組んだこの事業は、地域に新たな雇用と活気を生み出しました。
その結果、後期高齢者の医療費が県内平均を大きく下回るなど、産業と福祉が好循環する町としても知られるようになりました。

参考:上勝町「ゼロ・ウェイスト宣言」
さらに上勝町は、2003年に日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を行い、資源循環の町づくりを進めてきました。こうした取り組みが評価され、2018年には国の「SDGs未来都市」にも選定されています。
44種類に分別、テイクアウトは弁当箱…上勝町の暮らし
なぜ上勝町は、ゼロ・ウェイストに取り組むのか?
上勝町のゼロ・ウェイストは、観光や地域活性化のために始まったものではありません。
町が直面していた現実的な課題に向き合った結果として生まれた取り組みです。
かつて上勝町では、ごみの多くを野焼きで処理していました。しかし生活の変化によりプラスチックなどの人工物が増え、野焼きが禁止されます。そこで焼却炉を整備しましたが、ごみ処理に関する法規制が厳しくなり、小さな町で高性能な焼却施設を維持することは困難になりました。
焼却に頼ることが難しくなった上勝町が選んだのが、燃やすごみをできる限り減らし、資源として循環させる方法でした。こうして2003年、日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」が行われます。
つまり上勝町のゼロ・ウェイストは理想から始まったものではなく、やらざるを得なかった現実の中から生まれた選択だったのです。
ゴミの分別は、驚異の44種類!
上勝町では、家庭から出るごみを44種類に分別しています。
紙類、びん、金属、プラスチックなど、それぞれの素材ごとに細かく分けられた回収箱に分別していく仕組みです。

町内にはごみ収集車が回るわけではなく、住民がごみ袋をゼロ・ウェイストセンターへ持ち込み、自分で分別していきます。
最初は驚く人も多いかもしれませんが、実際に訪れてみると、町民の方々が自然に分別を行っている様子が印象的でした。

こうした取り組みによって、上勝町のリサイクル率はなんと約80%に。
一般的な自治体のリサイクル率が20%前後と言われる中で、全国でも非常に高い水準を維持しています。
※ちなみに自家用車を運転できない人のための無料の運搬支援制度もあります。
テイクアウトは「弁当箱持参」が当たり前

上勝町の暮らしの特徴は、ごみを出さない工夫が日常の中にあることです。
例えば町内の飲食店では、テイクアウトの際に使い捨て容器を使わないことが原則。
町民は弁当箱や容器を持参して料理を受け取ります。

一見すると不便にも思えるかもしれません。しかし、実際にはこの習慣が当たり前の暮らしとして根付いています。
ごみを出さないことを前提に生活の仕組みが作られているのです。
ものを捨てないため、町民同士でくるくるする

ゼロ・ウェイストセンターの中には「くるくるショップ」と呼ばれるスペースもあります。
町民が不要になった食器や衣類などを持ち寄り、必要な人が自由に持ち帰ることができる場所です。
2026年2月の1ヶ月だけでも、613kgもの品物が持ち出されました。
これは、廃棄されるはずだった多くのものが新しい持ち主のもとで再び使われていることを意味します。


上勝町では、ごみを減らす取り組みが特別な活動ではなく、暮らしの文化として自然に続いているのだと感じました。
部屋の内装もリサイクル品、宿泊中のゴミも44種類に分別…暮らしを感じるホテル時間
上勝町には、ゼロ・ウェイストの考え方を体験できる宿泊施設があります。

出典:徳島県上勝町観光サイト

館内に入るとまず気づくのは、建物やインテリアの多くがリサイクル素材で作られていることです。




例えばカーテンは、使われなくなった布の端切れをつなぎ合わせて作られています。
家具や建具にも再利用された素材が使われており、ホテルの空間そのものが「資源を循環させる仕組み」を体現しているようでした。
単に宿泊するだけではなく、建物の中にいるだけでゼロ・ウェイストの思想を感じることができます。
宿泊中に出たものも44種類に分別する?!

この宿泊体験で印象的だったのが、滞在中に出たごみも分別することです。
宿泊者も町民と同じように、44種類の分別ルールに従ってごみを分けます。
旅先では、ごみを深く意識することはあまりありません。
しかし上勝町では、滞在中のちょっとしたごみ一つにも向き合うことになります。
すると自然と「これはどんな素材なのか」「本当に必要なものだったのか」と考えるようになります。
ごみを分別する行為そのものが、暮らしを見直す体験になっているのです。

STUDYツアーも開催(宿泊者無料)

上勝町の宿泊施設では、ゼロ・ウェイストの取り組みをより深く知ることができる「STUDYツアー」も開催されています。宿泊者は無料で参加することができ、町の資源循環の仕組みやゼロ・ウェイストの背景について学ぶことができます。
ツアーでは、ゼロ・ウェイストセンターの施設を見学しながら、なぜ44種類もの分別が行われているのか、どのようにリサイクルが進められているのかといった具体的な仕組みが紹介されます。単に施設を見るだけではなく、町がどのような経緯でゼロ・ウェイスト宣言に至ったのかといったストーリーも知ることができ、取り組みの理解が深まります。
実際に説明を聞きながら施設を見て回ると、日常生活の中に資源循環の考え方がどれだけ深く根付いているのかが、改めてよく分かります。観光として訪れるだけでは見えにくい町の背景を知ることができる点も、このツアーの魅力の一つです。
生活を知ることで町を好きになる

こうした体験を通して感じたのは、上勝町のゼロ・ウェイストが単なる環境活動ではなく、町の暮らしそのものだということです。
観光客として訪れているはずなのに、いつの間にか町の生活の一部を体験している。
それが、この町での滞在の面白さでした。
上勝町を訪れる人が増えている理由は、観光施設の多さではなく、地域の暮らしそのものを体験できることにあるのかもしれません。
「また来たい!!」上勝町で感じた、これからの観光

こうした滞在時間は、観光地を巡る旅とは少し違います。
むしろ、暮らしに触れることで自分の生活を見つめ直すような、“考える旅”に近い感覚でした。
町の人たちの姿も印象的でした。
住民の方々や移住してきた人たちが、この町の暮らしや文化に誇りを持ち、上勝町への愛情を自然に語る。その姿に触れるたびに、この町の取り組みが長く続いてきた理由が分かる気がしました。
そうした空気に背中を押されるように、私はまた夏にこの町を訪れることを決めました。
今度は観光客としてではなく、もう少し長くこの町の暮らしを感じてみたいと思ったからです。

これまでの観光は、多くの場合「非日常」を楽しむものでした。
名所を巡り、写真を撮り、短い時間で多くの体験をする旅です。
しかし上勝町で感じたのは、もう一つの旅のあり方でした。
それは、地域の暮らしに触れ、時間をかけて町を知り、いつの間にかその町を「好きになっていく旅」です。
観光地を見る旅から、地域を知る旅へ。
そして、暮らすように滞在する旅へ。
上勝町には、これからの観光のヒントが隠れている気がしました。
ゼロ・ウェイストセンター〝WHY〟
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上勝町ゼロ・ウェイストセンター"WHY"〈オフィシャルサイト〉
日本で初めて「ゼロ・ウェイスト」掲げた徳島県上勝町。持続可能な社会を目指す体験型ホテルやゴミステーションが併設された環境型複合施設です。
why-kamikatsu.jp


