近年、注目を集める「観光税」。
しかし、そもそも観光税とはどのような仕組みなのか?
なぜ導入が簡単ではないのか?と疑問を感じる方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、国内と海外の観光税の事例を取り上げながら、その背景や目的、そして観光税がもたらす未来について分かりやすく解説します。
画像を多く使用して、リラックスしながら読み進められる内容をお届けします!
そもそも、観光税とは?
観光税とは、観光地を訪れる旅行者に課される税金の総称で、地域の整備や活性化のための財源として活用されます。
一般的に知られる「国際観光旅客税」は、日本を出国する全ての旅行者から1,000円を徴収し、観光インフラ整備やプロモーションに充てられています。
別名「出国税」とも呼ばれており、国に納付する国税にあたります。
一方で、自治体が独自に設ける観光税には、「宿泊税」をはじめ、さまざまな種類があります。
宿泊税は、東京都や大阪府などで導入され、宿泊料金に応じた一定額を宿泊客から徴収するものです。
今回の記事では、観光税のなかでも特に自治体が設ける観光税(宿泊税等)について詳しく解説していきます。
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観光税を導入するメリット
まずは観光税を導入するメリットについて、押さえておきましょう。
観光地の保全と維持
観光インフラや施設の整備、環境保護活動に必要な資金を確保することができます。
地域経済の活性化
税収を活用して観光地の魅力を高めたり、プロモーション活動を行うことで、地域経済の活性化につながります。
オーバーツーリズムの緩和
観光税を導入することで旅行者数をコントロールし、過剰な観光客集中による負担を軽減できます。
抱える環境への負荷やオーバーツーリズム(過剰観光)の課題に対応し、旅行者と地域の双方にとって良いバランスを保つことができます。
観光税を導入するデメリット
観光税の導入にはデメリットもあります。
観光客の減少リスク
観光税を課すことで旅行費用が上昇し、特に予算を重視する旅行者が他の目的地を選ぶ可能性があります。
税収の使途に関する透明性の欠如
観光税がどのように使われているのかが不明確な場合、納税者である観光客や地元住民の不満を招くことがあります。
地元観光業者への負担
観光税が導入されると、ホテルや観光施設などの地元事業者が価格競争力を失う可能性があります。
国内の導入例
【前提】そもそも観光税は、なぜ自治体ごとで定めることができるのか?
宿泊税が自治体ごとに定められるのは、日本の税制において「法定外目的税」という仕組みがあるためです。
法定外目的税とは、地方税法で規定された税目以外に、地方自治体が独自に課すことが認められた税金のことです。
自治体が法定外目的税を導入するには、税の必要性や公平性、住民や旅行者への影響を考慮したうえで、国に対して申請し、総務大臣の同意を得る必要があります。
宿泊税は、観光振興や地域整備といった明確な目的があるため、この仕組みを活用して多くの自治体で導入されているのです。
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総務省|地方税制度|法定外税
www.soumu.go.jp
今回は国内事例の中でも、特に知っておくべき事例を紹介いたします。
石川県金沢市
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石川県金沢市では、宿泊税が導入されています。
金沢市の宿泊税で注目すべき点は、その分かりやすさです。
5,000円以上と20,000円以上の2項目で構成されており、定額制を採用している中ではかなり分かりやすい設定になっています。
宿泊料金(1人1泊・税抜き) | 税率 |
---|---|
5,000円未満 | 課税されません |
5,000円以上20,000円未満 | 200円 |
20,000円以上 | 500円 |
宿泊者の方が宿泊の対価又は負担として宿泊施設に支払うべき金額(素泊まり料金とそれにかかるサービス料等)に対して適用されます。
参考:宿泊税について/金沢市
北海道 倶知安町
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2025年1月現在、国内で唯一の定率制での宿泊税を設定しているのが、北海道の倶知安町(くっちゃんちょう)です。
倶知安町は、世界的な冬のリゾート地として知られており、多くの外国人観光客が訪れています。
宿泊料金(1人1泊・税抜き) | 税率 |
---|---|
宿泊料金に関わらず | 宿泊料金の2% |
宿泊者の方が宿泊の対価又は負担として宿泊施設に支払うべき金額(素泊まり料金とそれにかかるサービス料等)に対して適用されます。
1 泊食事付きの旅行プランなどで、明確に食事代を分離できない場合は、1 泊につき 1 回分の食事が提供される場合は支払い金額の 10%、1 泊につき 2 回分の食事が提供される場合は支払い金額の 20%、1 泊につき 3 回分の食事が提供される場合は支払い金額の 30%を食事代として計算し、差し引きます。
参考:倶知安町の宿泊税について
福岡県、福岡市、北九州市
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福岡県では、県と市で二重で宿泊税を設定している珍しいしいケースです。
⚫︎北九州市
県税 | 北九州市税 | 総額 |
---|---|---|
50円 | 150円 | 200円 |
⚫︎福岡市
宿泊料金(1人/税抜き) | 県税 | 福岡市税 | 総額 |
---|---|---|---|
20,000円未満 | 50円 | 150円 | 200円 |
20,000円以上 | 50円 | 450円 | 500円 |
⚫︎福岡県内の他の市町村
県税 | 市町村税 | 総額 | |
---|---|---|---|
福岡県市町村 (北九州市・福岡市以外) | 200円 | 徴収なし(0円) | 200円 |
福岡県市町村 (北九州市・福岡市以外) | 100円 | 徴収あり | 100円+それぞれの市町村が定めた宿泊税 |
広島県廿日市市
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人気観光地・宮島のある広島県廿日市市(はつかいちし)では、宮島訪問税を導入しています。
納税方法は、2つ用意されており、納税義務者はどちらかを選ぶことができます。
金額 | |
---|---|
訪問者が宮島を訪問(入域)するごとに1人1回 | 100円 |
1年分を一時に納付する場合は、訪問者1人1年ごとに | 500円 |
参考:宮島訪問税の概要
【補足】なぜ観光税が重要視されているのか?
近年、日本の観光地では訪日外国人客の増加に伴い、オーバーツーリズムが深刻化しています。
過剰な観光客は、地域住民の生活環境や自然資源への影響を招き、観光地の魅力を損なうリスクがあります。観光税はこうした問題への対策資金として重要であり、観光地のインフラ整備や環境保護、観光地管理に活用されます。
また、観光客自身が恩恵を受ける地域の魅力向上にも繋がり、観光の質を高める効果もあります。
ただし、地域や業界の声を十分に聞きながら進めなければ、摩擦や誤解を招く恐れがあります。
導入は、慎重かつ丁寧に進めることが求められます。
世界の導入例
海外でも多くの国や自治体が観光税を導入しています。
日本と異なるのは、国が主導して観光税の導入を定めているところが多い点です。
フランス(パリ)
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フランスでは「滞在税(Taxe de Séjour)」が地方自治体ごとに設定され、宿泊施設のランクに応じた税額が徴収されます。
例えば、高級ホテルでは1泊あたり最大4~5ユーロ程度課税されることもあります。この税収は観光プロモーションや文化遺産保護に活用されています。
施設のランク(例えば星の数)などにより税額を変える仕組みは、イタリアやスペインなどでも導入されています。
インドネシア(バリ島)
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バリ島では、外国人観光客を対象に「外国人観光客徴収金」が課されています。
旅行者の支払い負担を軽減するため、さまざまな支払い方法が用意されています。
専用アプリ「LOVE BALI(ラブバリ)」を利用したクレジットカード決済のほか、空港や「LOVE BALI」サイトに登録されたホテル、旅行代理店、観光地での支払いも可能です。
この税金は、環境保全や文化遺産の維持を目的としており、寺院や伝統文化の保護活動に充てられます。
観光産業が経済の中心を担うバリ島では、観光税を観光地の持続可能性に直接結びつける取り組みが進められています。
ブータン
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ブータンでは「持続可能な開発費(Sustainable Development Fee, SDF)」として、観光客に1人1泊あたり200ドル(2022年改定後)を課しています。
この収益は、環境保護や文化維持、インフラ整備に充てられます。
ブータンの宿泊税は高額であることでも有名です。
2022年に、これまでは65ドル(およそ8600円)から、3倍以上の200ドル(およそ2万6000円)に大幅に増額しました。
これによりオーバーツーリズムの緩和し富裕層を中心とした高単価な旅行増加が期待されています。
一方で、旅行コスト増加による旅行者の減少で経営難に陥るホテルも一部であり、観光業全体のバランスを取るためには、富裕層向けの戦略と並行して、中間層や一般層も取り込む柔軟な施策が求められています。
観光税の引き上げが地域経済や観光産業に与える影響を慎重に検証し、持続可能な観光モデルを模索することが必要です。
観光税の理想的なあり方とは?
観光税は、地域経済の持続的な発展を支える重要な財源として注目されています。
しかし、その導入には慎重な議論が求められます。
課税方式の選択や公平性の確保、地域特性への適合など、解決すべき課題は多岐にわたります。
特に、「定率制」か「定額制」かの選択は難しいポイントです。
- 定率制は宿泊料金に応じて課税する方式で、利用者に過度な負担を与えにくいという利点がありますが、高級宿泊施設が多い地域ほど税収が増えるため、地域間での公平性が課題となります。
- 一方で、定額制は一律の課税方式で分かりやすいものの、低価格帯の施設を利用する観光客にとって相対的な負担が大きくなる可能性があり、結果的に観光客の減少を招くリスクがあります。
2026年に新たに創設される予定の北海道全体の宿泊税でも、この課題が浮き彫りとなっています。
現在、「定額制」の導入が検討されていますが、既に「定率制」で宿泊税を導入している北海道倶知安町との調整が課題となりました。
倶知安町は、国内外からスキーリゾート地として高い人気を誇り、外国人観光客の利用が多い特性を活かした税制を採用しています。
一方、北海道全体では広大な面積や観光資源の多様性を考慮する必要があり、制度設計の複雑さが増しています。
観光税は、適切に運用すれば地域の課題を解決する「切り札」となり得ます。
しかし、制度設計を誤れば、観光客や地元事業者にとって過剰な負担となり、観光需要を損ねるリスクもあります。
地域住民、観光業者、自治体が一体となり、それぞれの地域特性を踏まえた理想的な観光税のあり方を模索することが不可欠です。
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