今、「応援消費」と呼ばれる消費行動が注目されています。
それは、モノやサービスを買うこと自体ではなく、「誰を、どんな未来を応援するのか」ということを意識して選択したい人が増えているということです。
この考え方は、「観光の高付加価値化」とも重なります。
とくに富裕層と呼ばれる人たちは、旅に対して、人生に影響を与えるストーリーや経験、そして利用する施設や事業者がどんな信条や哲学を持っているかを重視しています。(「トランスフォーマティブトラベル(変容的な旅・自己変革の旅)」とも呼ばれています)
では、日本の観光事業者は、その期待にどう応えていけばよいのでしょうか。
本コラムでは、「経済栄養表示(お客様が支払ったお金がどこへ、どのように使われているのかを示すこと)」を軸に、これからの観光のあり方を提言します。
フィロソフィー = 企業や宿の存在理由を、数字や仕組みで示す時代
私は最近、この「応援消費」のカタチが変わってきているように思います。
これまでも、企業や宿泊施設のフィロソフィーは、「想い」や「理念」といった言葉で語られることが多くありました。
もちろん、それ自体が間違っているわけではありません。
しかし今、それだけでは伝わりにくくなっています。
お客様、とくに旅慣れた人や富裕層と呼ばれる人たちは、その理念が、実際の行動や仕組みにどう落とし込まれているのかを見る傾向が強まっているのです。
どんな人を雇い、
どこから食材や資材を仕入れ、
お客様が支払ったお金が、
地域の中でどのように循環しているのか。
こうした「数字」や「構造」こそが、いまの時代におけるフィロソフィーの表現になりつつあります。
重要なのは、理念や想いを掲げることそのものではありません。
それがどれだけ本気なのかが、旅行者にきちんと伝わるかどうかです。
これは、旅行者自身の人生を見つめ直す「トランスフォーマティブトラベル(変容的な旅・自己変革の旅)」にも繋がり、大きな選択基準となります。
世界は「語る観光」から「示す観光」へ。
世界に目を向けると、すでに地域や宿のストーリーやこだわり、理念を「語る観光」から「示す観光」に変わりつつあります。
お金の流れや、地域との関わり方を「数字」や「仕組み」で可視化し、ときに旅行者に実践者になってもらうことで、旅は単なる消費ではなく、旅行者自身が価値観や生き方を見つめ直すトランスフォーマティブトラベル(変容的な旅・自己変革の旅)でもあります。
富裕層を中心に訪問先を選択する重要な理由になり始めています。
Fogo Island Inn / Shorefast(カナダ)
カナダにあるFogo Island Innでは、“Economic Nutrition™”で、ゲスト支出の行き先を「ローカル/地域/国内/国際」に区分して公開しています。
最新の記事では「宿泊費の過半が島内に残り、96%がカナダ国内、利益は財団へ再投資」と明言。
まさに「Where does your money go?」をラベルで可視化している世界的ロールモデルです!
参考:fogo island Our Radical Approach
参考:Economic Nutrition
Fairbnb.coop(欧州/民泊予約サイト)
民泊予約時に発生するプラットフォーム手数料の 50%を開催地の社会プロジェクトへ還元する、
画期的な民泊マッチングサイトです。
通常の利益重視型のツーリズムとは異なり、地域の中でお金が循環する、持続可能な観光の仕組みを目指しています。
このサービスは、創設者が地域で深刻化するオーバーツーリズムの課題に向き合い、「民泊が地域にきちんと貢献する仕組みをつくりたい」という思いから生まれました。
宿泊施設単体ではなく、“予約の仕組みそのもの”で地域還元を明確化した事例として、非常に示唆に富んだ取り組みです。

参考:Fairbnb.coop
G Adventures(ツアーオペレーター)
世界中で展開する旅行代理店・G Adventuresでは、“Ripple Score”で「現地に落ちる支出の割合(平均92〜93%)」を公開しています。
宿泊単体ではありませんが、“支払い→ローカル循環”のスコア化で、旅行者はツアーの地域貢献度を知ることができます。
この事例のように、経済栄養表示は、宿泊施設だけでなく旅行会社や自治体主催のツアーでも活用も可能です。

参考:G Adventures
観光を通じて、まちの「理念」を「行動」に変える宿

日本国内において、経済栄養表示を「数値」で明確に示している事例は、まだ多くありません。
しかし、地域の理念を旅行者にしっかりと伝え、考え、体験し、実践してもらう取り組みを行っている事例は存在します。
その一つが、
徳島県上勝町にある 「上勝町ゼロ・ウェイストセンターWHY」 です。
上勝町は2003年、日本でいち早く「ゼロ・ウェイスト宣言」を発表しました。
この町では、単にごみを減らすのではなく、ごみが出てしまう仕組みそのものを変えることを目指してきました。
WHYは、そうした考え方を発信する拠点として生まれた宿泊施設です。
ここは、滞在する人同士が交流し、想いや知恵を学び合いながら、私たち自身の暮らしや意識を見つめ直すことができる場所でありたい、という想いが込められています。
施設内では、滞在中に自分が出したごみを分別する体験をはじめ、アップサイクルされた野菜収穫かごの本棚や、自然・環境問題をテーマに選書された書籍が並ぶ空間が用意されています。
また、町民が不要になったものを持ち込み、次に必要とする人へとつなぐリユースショップや、町民自らがごみを持ち込み、13種類・43分別に分けているごみ収集場も併設されています。
こうした取り組みは、スタッフによる施設案内ツアーを通して体験的に学ぶことができ、滞在そのものが「理念を理解する時間」として設計されています。
上勝町が大切にしてきた自然環境への姿勢を、旅行者自身が体験し、実践できる非常に参考になる例です。
日本も考え始める時期にきているかもしれない。
経済栄養表示は、流行や理想論の話ではありません。
観光が本当に地域のためになっているのか。旅行者が支払ったお金は、誰を支え、何を残しているのか。
この問いに向き合わない限り、「高付加価値化」も「応援消費」も、言葉だけで終わってしまいます。
数字で示すか、体験として伝えるか。
手法は事業者ごとに違っていいと思います。
しかし、理念を行動として示すことから逃げ続けることはできません。
世界はすでに動いています!
日本の観光も、次の段階へ進む覚悟を持つ時期に来ているはずです。
この取り組みが広がれば、観光事業者だけが利益を得る構造や目的を見失った補助金活用を避け、真に地域経済に価値を残す観光産業へと進化していくはずです。
今すぐできるアクションプラン
- 宿泊費(体験費)の“地域内/地域外”の内訳割合を出してみる
- 私たちは、観光を通じて、_____(誰)に_____(何を)残すために、この事業を行っています。を言えるようにする。
- これらをお客様に、数字もしくは体験で伝えられないか考える。


