観光行政

【今のままではダメ?】観光地域づくり法人(DMO)の機能強化に関する有識者会議を超分かりやすく解説します!

2024年5月17日

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令和6年4月26日時点で、合計301件ある登録DMO。
そうしたDMOの活動により、日本の地域観光が支えられています。

しかし、令和6年1月から定期開催されている観光庁の有識者会議では厳しい意見も出てきました。

今回は、DMOの現在の課題と、観光立国に向けて求められるDMOのあり方、そして、国の支援体制について解説いたします。

当記事は、観光庁「観光地域づくり法人の機能強化に関する有識者会議」の内容を、筆者が分析し、まとめたものです。

DMOとは

DMO(Destination Management/Marketing Organization)とは、地域の多様な関係者を巻き込みつつ、科学的アプローチを取り入れた観光地域づくりの司令塔となる法人のことを指します。

少子高齢化や人口減少に直面する日本にとって、「地方創生」は大きなキーワードになっています。

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都心への人口の集中を是正し、地方への人口流入を促進することで、その地域を活性化させていくことが求められている「地方創生」の中で大きなカギを握るのがDMOです。

これまで、飲食店や宿泊施設、また交通ビジネスといった各産業が個別に実施してきた観光施策を、DMOが中心となって推進していくことで、より旅行客の増加や旅行消費の拡大していくことを目指しています。
観光庁による定義にもあるように、地方に「稼ぐ力」をつける、また引き出すための戦略的な知見と実行力をもつ組織としてDMOが日本には必要とされています。

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具体的なDMOの役割・機能(観光地域マネジメント・マーケティング)としては、以下が挙げられます。

(1)観光地域づくり法人を中心として観光地域づくりを行うことについての多様な関係者の合意形成
(2)各種データ等の継続的な収集・分析、データに基づく明確なコンセプトに基づいた戦略(ブランディング)の策定、KPIの設定・PDCAサイク ルの確立
(3)地域の魅力の向上に資する観光資源の磨き上げや域内交通を含む交通アクセスの整備、多言語表記等の受入環境の整備等の着地整備に関する地域の取組の推進
(4)関係者が実施する観光関連事業と戦略の整合性に関する調整・仕組みづくり、プロモーション

観光庁 観光地域づくり法人(DMO)とは

このほかにも、災害等の非常時におけるインバウンド等への情報発信や安全・安心対策について、自治体等と連携して取り組むことも求められています。

「地方創生」の重要な役割を担うDMOには、一体どんな課題があるのでしょうか。

【前提】国が目指すのは、2030年までに6000万人、15兆円。

DMOの課題を議論する前に、"そもそも政府が何を目指しているのか"を理解する必要があります。

政府は、少子高齢化や人口減少の課題に立ち向かうべく、「地方創生」を進めています。
その地方創生において大きな切り札となるのが、観光産業です。

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『観光先進国』への新たな国づくりに向けて、政府がまとめた「明日の日本を支える観光ビジョン」には、次の3つが施策が明記されています。

明日の日本を支える観光ビジョン

その具体的な数値目標として発表されたのが、以下になります。

訪日外国人旅行者数 6,000万人(2015年の約3倍)
訪日外国人旅行消費額 15兆円(2015年の4倍超え)
地方部での外国人延べ宿泊者数 1億3,000万人泊(2015年の5倍超え)
外国人リピーター数 3,600万人(2015年の約3倍)
日本人国内旅行消費額 22兆円(最近5年間の平均から約10%増)

インバウンドに強く力を入れていきたいということが読み取れますね

現時点での達成状況

2030年の「6000万人、15兆円」という大きな目標を実現に向けて、細かなステップに分けた短期目標も立てています。
それが、観光立国推進計画です。

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観光立国推進計画では、新型コロナ後の現在〜2025年までを第4次としており、以下の目標が設定されています。

【2025年までに達成したい目標(観光立国推進計画 第4次)】
新型コロナ後〜2025年までに、
訪日外国人旅行者数 2019年水準超え(3188万人)
訪日外国人旅行消費額 5兆円

訪日外国人旅行者数の達成状況

2023年の1月〜12月の間で訪日外国人旅行者数は「2,507万人」と、目標達成にはなりませんでした。

2023年全体でみると、目標達成(2025年までに3188万人以上)には遠いように感じますが、2023年初めはまだまだ新型コロナウイルスの影響が多くありました。
同年12月の単月でみた場合、訪日外国人旅行者数は約273万人と、コロナ前と比べ108%の回復をしているため、このままいけば早い段階でクリアできそうな状況であります。

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訪日外国人の観光消費額の達成状況

2023年1月〜12月の間で訪日外国人の観光消費額は「5.3兆円」と過去最高になりました。(2019年は4.8兆円。2019年比9.9%増)
2023年初めにはまだ新型コロナウイルスの影響が残っていたことを考慮すると、驚異的な数字となっています。

訪日外国人(一般客)一人当たりの旅行支出は、21万2千円(2019年比33.8%増)となっており、平均泊数が伸びたこと(8.8泊→10.2泊)や円安・物価上昇の影響等が考えられています。

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【ポイントを6つに凝縮!】有識者の意見

こうした現状を踏まえて、「観光地域づくり法人の機能強化に関する有識者会議」では、地域観光のカギを握るDMOのあり方について議論がなされました。
なお、有識者会議の委員は、インバウンド専門家、大学教授、DX・マーケティングコンサルタントなどで構成され、実施されました。

また、海外のDMO事例も提示されて、日本が観光先進国として世界で戦っていくためにDMOに求められることが議論されています。

ここからは、たくさんのあった意見を6つのポイントに凝縮して解説していきます。

DMOを支える政府のサポート体制なども見直される予定です。

1.実行性のある観光地経営戦略の策定、それに沿った取組の促進

【意見:DMOや観光のミッションを明確にするべき】

今回の資料には、「DMOの使命とは何か」についての記載が欠けている。まずは、DMOは地域の観光経済の拡大、観光産業従事者の賃金向上、労働条件改善の実現のために存在するということを冒頭に記載した上で、実現に向け6つの論点に対する施策が必要となることを明確にすべき。

観光地経営戦略の策定はDMOとして当然の取組ではある一方、何のための観光なのか、何のためのDMOなのか、ミッションが何なのか、といった点が明確に定義されていなければ、戦略策定、実行も評価もできない。

意見を踏まえた観光庁の対応方針(案)

戦略には次の事項を含め、実行性のある内容を戦略にまとめることを必須とする。
・地域が観光に求めるもの、そのためのDMOのミッション、DMOが果たすべき役割、求めるべき成果
・地域全体の受入環境整備の方針を含めた最低限実施すべき事項

DMOによる戦略策定のために、必要最低限の項目を含めたひな形を提示する。

その上で、実行段階にあたっては、PDCAを回すことを原則とする。

2.インバウンド誘客の基盤となる受入環境整備

【意見:ネイティブチェックはするべき】

ネイティブチェックを行っていないDMOは、直ちに登録を取り消すべきと考える。

ネイティブチェックに関しても、手段に関わらずすべきであり、有効なチェック制度やサポートがあることを提案し、利用を促すことが望ましいと考える。

【意見:二次交通の確保を重視するべき】

・エリア内での公共交通機関による二次交通が脆弱でありレンタカー頼りになっている。

新幹線など主幹となる公共交通へのアクセスがしにくい地域である上、主たる駅からの二次交通も充実していない。このため、遠方からの集客が難しいのが現状。

意見を踏まえた観光庁の対応方針(案)

サポートツールの充実等を検討しつつ、ネイティブチェックを推進する。

地域において、整備の優先順位も考慮し、旅行者目線に立った受入環境整備を推進できるよう、観光地域づくりの司令塔としての
DMOの役割を明確化する 。

地域全体での二次交通の確保に向けた取組を推進できるよう、DMOは司令塔として何をすべきかを明確化する。

3.消費拡大・地域裨益の促進

【意見:地域裨益の可視化】

高く売ることや利益を適切に回していくことは悪いことではない、どちらかというと良いことであるという風に思ってもらうなど、マイナスの意識をプラスにすること。

上げた利益をどのように使っていくのか、次に繋げていくのか、というところまでの目線がないとならないという話である。
その際、価格に関してはまだ伸び代があるため、方法論も含めてしっかりと教える必要がある。

【意見:ガイド人材の育成・確保】

ガイド人材は報酬の少なさや繁閑差によって通年での就労が困難。

地域全体でガイド人材を支える体制は未構築で、個々のガイド事業者頼みの地域も少なくないが、経営状況は脆弱である。

意見を踏まえた観光庁の対応方針(案)

持続可能(サステイナブル)な地域づくりに向け、域内循環に係る数値目標の導入を必須とするとともに、その達成度を評価する仕組
みの構築を促進する。また、その結果の可視化も促進する。

地域調達率等成果指標の簡便な算出手法について検討し、提示する。付加価値に見合った適正な価格づけができるように、マニュアル等の策定を検討する。

地域全体でのガイド人材の育成・確保に向けた取組を推進できるように、司令塔としてのDMOの役割を明確化する。

4.持続可能なDMOの組織の推進

【意見:自主財源の確保】

都道府県や市町村単位で、公的資金の決済権限をDMOに移管できる制度(条例など)を設けることが不可欠と考える

宿泊税について、経済同友会が3%~5%の定率で徴収することを提言しているが、まさにこの点が重要。

【意見:人材確保も必須】

若者がDMOに魅力を感じて就職し、育っていく環境がDMOの中に必要なのではないか。
若手プロパーを採用して育てていく、若手プロパーを雇えるような支援策等も考えてもらうと、DMOの人材の部分の持続可能性、ひいては、組織の持続可能性に繋がるのではないか。若手の登用、教育は必要と感じている。

インバウンド対応を盛り込むのであれば、受け皿として(英語が喋れるだけではない)外国人の専門人材などの人材を入れないといけない。

意見を踏まえた観光庁の対応方針(案)

財源の使途や目的を整理し、事業収益や宿泊税による収入等を含めて、DMOの自主財源の比率を高める取組を推進する。

DMO内で、トップから若手職員まで、それぞれの職責に応じた人材育成を強化する。

若者・外国専門人材等の採用を促進する。

5.各区分のDMOの役割の明確化、連携の強化

【意見:広域連携DMOの役割の明確化】

各区分のDMOの役割、役割分担の議論は、国が直接関与するのではなく、各地の運輸局の主導のもと管内のDMOを集め、議論を進めていくことが適切と考える。

連携/広域DMOの役割で言うとそれぞれが競合しないように、皆が売れるようにポジショニングを決めていくだけの話である。
そのためのデータ収集や分析、マネジメントである。

意見を踏まえた観光庁の対応方針(案)

区分の役割分担については、地域・エリアの状況を勘案する必要があるため、運輸局管内をベースに議論を実施する。

インバウンドの取組を強化することを念頭に、3層構造の中でまずは、広域連携DMOが果たすべき重点的な役割を明確化する。

広域連携DMOは、インバウンド誘客に向けたポジショニングを意識し、JNTOとの連携も整理した上で、データ収集・分析等を実施す
る。

6.多様な関係者の巻き込み(調整・合意形成)の促進

【意見:基礎的データの活用による合意形成の促進】

地域経営の視点においては、農林漁業、商工業、文化財の関係者に、旅行者の存在でこれだけ収入が上がるということをビジネスとして認識されないと、巻き込みは促進されないと思う。

地域振興そのものの話からすると、住民レベルでは殆ど関係が無く、興味もない。普段、市役所・行政側は人口減少、経済の縮小等に課題感を持っているが、住民レベルでは誰も生活に現状困っておらず、干上がっていないのに何故動くのかという話になり、動かない。
そうした意味では、厳しい現状を認識してもらうような啓蒙活動も必要かもしれない。

意見を踏まえた観光庁の対応方針(案)

観光に関する基礎的なデータの活用を推進することにより、住民を含む地域関係者の理解を促進する。

観光による裨益が著しいと考えられる非観光関連事業者(例えば、文化財、国立公園、農林水産業、商工業等)の巻き込みを推進する。

DMOのマーケティング力の強化も課題?

先述した通り、日本が観光立国を目指す背景として、"観光が稼ぐ基盤"になるというものがある。

今回の有識者会議では、「稼ぐ観光」という部分において厳しい意見も多数見受けられた。

依然として、プロモーションのみに終始している DMO が非常に多いものと感じる。以前から複数回にわたり観光庁に依頼している事項だが、DMO が実施するプロモーションの取組により、 実際に観光客の誘致に効果があったのかを検証し、因果関係を示して欲しい。

DMO には、これまでの補助金を獲得しての取組実施から、ビジネスを実施する方向へ変化してもらいたい。できなければ、日本の観光戦略は止まってしまうと思う。

これまで見てきた DMO の多くは、補助金を獲得するための形式的な仕事が中心になり、観光地・地域との関係構築、連携がほとんど実施されていないといった問題が以前からあった。特 に、5、6 年前には、有名観光地で DMO を設立したものの重要なメンバーが総会の時以外 に地域に行っていない、補助金による情報発信、ブランドづくりばかりを実施している DMO があった。

DMO側としても、人材不足や地域からの理解が得られにくい課題があるなど、地域経済のことだけを考えて取り組むのは難しい現状もあると思います。また、DMOがあまり儲けに走ると地域住民から反発があるという意見もありました。

ただ、一部のDMOにおいては、有識者の意見にある通り、「補助金獲得のための形式的な仕事」や「本当に効果があるのか分からない施策」をしているところもあるのは事実です。

DMOの役割を再認識して、官民一体となって「稼ぐ観光」の実現に向かっていく必要があります。
そのために、地域観光の中心であるDMOが、先頭をきって、マーケティング力や経営力、リーダーシップ力を磨く努力をしていくことは重要だといえるでしょう。

まとめ

政府が掲げる2030年の目標実現に向けて、インバウンドを中心に、旅行客数・消費額ともに順調に推移しています。

しかし、DMOの運営や政府の支援体制において、課題も浮き彫りになってきました。

【これまでの有識者会議での主な課題】
・観光の重要性、DMOの役割やミッションをもっと明確にするべき
・外国語表記のネイティブチェック等をしっかりと行えていない
・二次交通が充実していない
・地域全体が、利益を得ていく重要性をわかっていない
・ガイド人材の育成や確保に課題がある
・DMO自体の自主財源や人材確保が追いついていない
・各区分のDMOの役割、役割分担をハッキリさせるべき
・住民への啓蒙活動
・DMOのマーケティング力・経営力の向上

これらの課題に対して、どのような対策が取られるのかが注目されています。

私は、一部のDMOにおいてマーケティング力が不足しているという意見に、特に注目しました。
データや計算をせずに思いつきで行動したり補助金目当てのDMOがあるのも事実だと思います。
その原因は、「観光業はマーケティング効果が分かりにくい構造」にあると考えています。
観光客数の増加や消費額のアップが、DMOの活動によるものなのか、外部要因によるもなのかが判断しにくい。

私は、競争が激しい化粧品やサプリメントのマーケティング支援にも関わらせていただいていますが、クライアント企業の担当者は"顧客獲得単価"から、"離脱率"、"リピート率"まで厳しくチェックをされます。
”1円の広告費も無駄にしない”というのをモットーとしている会社もありました。

そうしたレッドオーシャン業界のマーケティングの視点が観光業界により多く入れば、もっともっと「稼ぐ観光」に繋がるのではないかと考えています。
そうした意味では、他業種からの参入も活発になるといいのですが、各社がもっと高い給与を出せるようにする必要があります。
そのためには、最初にマーケティング力が必要…という卵とニワトリ論争みたいになるところが、現在の課題なのだと思います。

「観光地域づくり法人の機能強化に関する有識者会議」は、今後も定期的に開催される予定ですので、観光庁のホームページなどで随時動きをチェックしていきたいと思います。

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  • この記事を書いた人

上野 颯

添乗員・観光イベントの企画者

1998年 愛知県一宮市生まれ、岐阜市育ち
中学生で最年少岐阜市まちなか案内人デビュー
2017年に地元の旅行会社に入社。
カリスマ添乗員・平田さんに学びながら、ツアーの企画・添乗に従事。
2019年には「添乗員上野と行くツアー」初企画
2020年に、コロナ禍で旅行予約が0になったことを機に、観光DXの重要性を感じ、IT技術を広く習得
2023年、株式会社aini-kuを設立。
公立高校 商業科(観光ビジネス)臨時講師、観光コンテンツの企画、バスツアーの企画などを行っています。

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