2024年4月に新刊「あの世にもっていけるのは「思い出」だけ(サンマーク出版)」を出版された、大尊敬する平田進也さんとお会いしました。
なにわのカリスマ添乗員として知られる、平田進也さんには、約7年前に初めてお会いしました。
当時、添乗員1年目だった僕に心のスイッチをガンガン押していただいて、本当に人生を変えていただきました。
44年間にわたり観光業の第一線でご活躍される平田進也さんから、たくさんのヒントをいただいたので、この記事を通して共有させていただきます。
ファンクラブの会員数約2万人を超え、関西で絶大なる人気と知名度を誇るカリスマ添乗員。
50年間、日本旅行で添乗員を務めている。京都外国語大学在学時からテレビ番組「ラブアタック!」の名物みじめアタッカーとして活躍。
日本旅行入社後も、「マツコの知らない世界」「ジョブチューン」「ガイアの夜明け」「おはよう朝日です」「探偵!ナイトスクープ」などに出演し、テレビ出演は700回を超える。
添乗員としての豊富な経験と、おもしろトーク&変身芸を生かして「平田進也と行くツアー」は、発売するとすぐに売り切れるほど幅広い層のファンを持ち、「ナニワのカリスマ添乗員」の異名をとる。
「観光とは、非日常」を作り出す産業
自分の近況をお伝えしたら、平田さんはこう教えてくれました。
「上野くん、人と違うことをすることだよ」
観光とは、光を観ること。
非日常を味わってもらうこと。
最近の私は、小難しいマーケティングや経済の話などに感化されて、「正しいだけのこと」をしてしまいがちになっていました。
もちろん多くのお金や人が関わる事業の場合は、必要不可欠の考え方であることは間違いありません。
ただ、観光客は「非日常」を楽しみに来られているという事実を忘れて、「正しいだけの企画」や「お金だけが目的の取り組み」だけになってしまっている観光事業者も多いのではないでしょうか。
平田さんは、お金を稼ぐことはビジネスをする上で大事とした上で、喜んでいただいたり、「そこまでやるか!!!」とお客様にビックリされたりするようなことを積み重ねていけば、競合他社との競争から抜け出した、本当の「安定」が獲得できるといいます。
利益の重要性は、私も会社を経営する中で日々痛感しています。
でも、
「利益を追い求めすぎると、お客さんが逃げる。」
ということも、同じくらい感じています。
いくらの売上があるか、年収はいくらか、貯金はいくらか、などお金がものさしの現代で、
お客さんに「びっくりした!」「そこまでやるか!」という感動を与えることに全力を注げるのは、大きな差別化になります。
ほかの企業がやらないからです。
こうした積み重ねにより、お客様は「あなたから買いたい!!」「他社よりも高くても、あなたのところがいい」というファンになっていき、長期的に安定して成長していくのだと思います。
安定した収益に、ファンやリピーターの存在は重要です。
まずは、喜んでいただく。
そのためには、必然的に「人と違うこと」をする必要があります。
重要なことなのに、ついつい忘れがちなこと。
大先輩・平田さんから教えていただきました。
では、平田さんが具体的にどのように人と違うことを行ってきたのか。
そして、なぜ「ファン2万人の人気添乗員」となれたのか。
メディアでは語られない、その本当の"理由"がわかったので、次章でお伝えしていきます。
シニア層の"居場所づくり"
平田さんをテレビや新聞などのメディアで見たことがある方は、「女装」や「面白いトーク」が人気の添乗員というイメージをお持ちの方も多いと思います。
実際に、ツアーの中で女装をしたり、移動中ずーっとお話して楽しませたりといったことはお客様からも大好評です。
でも、僕はそれだけで”ファン2万人”をつくったわけではないと思っています。
平田進也さんが、なぜ人気なのか。
その理由は、平田さんことをよく知る方とお話をしている中で分かりました。
「90歳になった常連さんが元気なうちに、たくさん美味しいものを食べに連れて行こうね!って平田さんと話をしているんです」
90歳になった常連さんは、自分がツアーに参加することで、みんなに迷惑をかけたくないと外出の頻度も減ってしまっているようです。
現在はお元気とのことですが、ご年齢的にも心配です。
平田さんは、「ツアーでみんなに迷惑をかけるとか気にしなくてもいいよ!」とお伝えしているのですが、その常連さんには申し訳なさもあるようです。
そこで、「それなら、ツアーでなくてもいい。みんなで美味しいものを食べに行こうよ!」と定期的に近場のレストランで、プライベート食事会を企画しているのです。
振り返れば、大阪で平田さんとお会いしたときに、こんなお話をしてくださいました。
「自分たちのツアーを通して「心の居場所」がつくることが出来たら嬉しい。」
2024年5月に警視庁が発表した統計によると、高齢者の孤独死の数は、実に年間6.8万人。
自殺件数においても年々増加しており、2023年には約2万2千人となりました。
様々な課題はありますが、先進国で豊かな日本という国で、この数字は不思議です。
特に高齢者の場合は、仕事をリタイヤして人間関係が希薄になったり、大切な人が亡くなってしまったりして、「心にぽっかり穴が空いてしまった」という人は多いのです。
平田さんのツアーでは、普通のツアーにはない光景を見られます。
それは、ツアーの最中、いたるところでLINEの交換が行われたり、写真を撮りあう光景です。
ツアーで知り合った者同士が同じ部屋で宿泊ツアーに行く人までいます。
平田さんのバスツアーに参加してみると分かりますが、「一般募集のツアー」なのに、その雰囲気は「同窓会みたいなツアー」になっています。
しかし、初めて参加する人も気まずいことはありません。
平田さんを中心にして、常連のみんながどんどん話かけてくれますから。
LINE交換して、「今度ご飯でも行こうか〜」となっていき、いつしか仲間の一員になってしまいます。
「ここに来れば、みんなが私を待ってる」
そんな"居場所"としてのツアーを平田さんが作っているのです。
それは、前述の90歳の方の事例のように、仲間に心配があれば、みんなでプライベートで食事にも行く「本物の親友」です。
平田さんのツアーは、「みんなが集まるきっかけ」なのかもしれません。
「平田さんに会いに、ツアーに行く」という人もいますが、どちらかというと「みんなに会いに、ツアーに行く」人が多いのでしょう。
団体客の減少でバスツアーはオワコンなどという声も聞きますが、平田さんのように「居場所としてのツアー」が増えていけば、むしろこれからますます求められていくと考えています。
平田さんが取り組む「インバウンド」の可能性
最後に、今年5月で67歳を迎えられる平田さんに、今後について聞いてみました。
「今は、添乗だけでなく、地方創生やインバウンドのアドバイザー、古民家再生、講演、執筆などたくさんのお仕事をいただいている。
体力が続く限り、やっていきたい。」
と、楽しそうに答えてくださいました。
コロナ前の2019年を上回る外国人が訪れる日本で、インバウンドにも携わられている平田さん。
「外国人が本当に求めているものを見つけること。
例えば、岐阜県でも高山市や白川郷は外国人が多く訪れることで有名。
でも、なかには、外国人に慣れていない観光地にあえて行って、住民目線の日本を楽しみたいというニーズもあるはず。
それを掘り起こしていくことが重要だと思う」
と教えてくれました。
インバウンド、古民家、地方創生。
観光業にはオーバーツーリズムやカーボンニュートラル、デジタル化(観光DX)などといった課題もあります。
平田さんのお話を聞いて、これから私たちができることはなにか。
最後のまとめで考えてみたいと思います。
これから私ができること
平田さんからたくさんのことを教わって、これからできること。
まずは、「観光という産業の原点を忘れないこと」だと感じました。
人は楽しいところに集まる。
その楽しいところをつくる仕事が、観光業である。
企画をするときには、「非日常」をどうしたら作れるのか、喜んでもらえるかを考える。
課題に取り組むときにも、観光客の非日常をできるだけ保った状態で、どうしたら課題を解決できるかを考える。
熱海のDXの事例であるように、デジタルを用いて、混雑状況を避けた最適なルートを提案し、観光客に時間を効率的に使ってもらう。
そうすることで、観光客を分散させて、オーバーツーリズムを防ぐ。
これも、観光客と地域の両方にとって嬉しい画期的なアイデアだと思います。
そして、デジタルを活用しつつも、アナログの良さも活かしていくこと。
今やネットで美しい風景が見れる時代ですが、それでも観光客はリアルの体験を楽しみに来られます。
すべてがデジタル化するのではなく、「人と人だからこそできること」は残していけたらいいなと思います。
私自身も、平田さんから学んだことを生かして、これからも自分にできることを精一杯に取り組んでまいります。